姉妹の帰郷

 妹さんのほうは、それは美しい方でした。ご存知でしょう。
女、という言葉を、あの方以上に意識させる方はこの村にはいませんよ。ご自分でもそれをよくわかっておられる方でした。誰もが一度はあの方に…正直なところ、僕だってそうです。でも、怖いところもありました。うまく言えないのですが、自分に興味を示さない人を人間扱いしないようなところがあったのです。
 お姉さんのことはご存じですか。いえ、有名でしたから、きっとご存じでしょうね。そりゃあ、妹さんに比べれば、お顔立ちはあまり美しい方ではなかったかもしれません。けれどそんなことは問題にないくらい、聡明な方でした。小さなころから、頭の良い子でした。村を出て大学に行って、学者になったらしいと聞いたときなんか、ああやっぱりそうなったかと思いました。妹さんとは違う、不思議な魅力のある方でしたね。
 去年の暮れでしたでしょうか。村のはずれにある森が閉鎖されて、学者さんが来るって話は随分前からあったんですが…その学者さんてのがお姉さんのほうだって話でね。村じゃ大騒ぎでしたよ。ええ、そりゃあまあ、いろいろとすごい論文なんかを発表されていて、有名になってらっしゃったという噂だったもんですから。森の近くに引っ越されたときにやじ馬がでたくらいですよ。まあ、ああいう方なので、すぐに村の皆も静かになりましたけれどね。
 その後すぐですよ、今度は妹さんのほうが、村に帰ってくることが話題になったのは。いや、妹さんの話題のせいで、お姉さんへの話題が無くなったのかもしれません。とにかく、なんせ村を出ていくときには玉の輿だって話題になったくらいの人が、今度はお産で帰ってくるっていうんですから、皆興味津々でしたね。
 でも、妹さんのほうは、何もかも昔と変わってしまっていました。どの店も妹さんのために扉を開いて待っていたのに、妹さんは家に篭ったままでした。村のはずれの家でしたが、僕の家にまで、毎日のように妹さんの声が聞こえてきましたよ、お姉さんを罵っているのです…でも、お姉さんはいつもの時間に平気な顔して森へ出かけていくのです。
 最後にお姉さんに会ったのはきっと僕だと思います。研究は順調ですか、というようなことを聞きましたよ。彼女は、ただ小さくおかげさまでと答えただけでした。
 そのとき彼女は、妹さんはもう長く生きないだろうと言っていました。まるで、他人事のようでした。僕がなんて言ったのかもう覚えていませんが…妹さんはこれから母親になるのだから…とかなんとか…自分の言ったことはもう忘れましたが、そのときのお姉さんのキョトンとした顔は忘れていませんよ。
「妊娠? うちのが?」
そうして、ほんとうにぞっとするような声でお笑いになったのです。
 けれど、先に死んだのはお姉さんの方でした。自殺でした。
こんな村です。色々と噂になってもよさそうなものですが、…誰も彼女のことを話題にはしませんでした。
 でも、そうですか。妹さんもやはり自殺されたんですか。そうですか。
お姉さんの言う通りになったのだと思います。どうか、妹さんのことは盛大に弔って、折々で話題にしてあげてください。彼女はそういう方ですから、きっとあのとき妹さんの…いや、やめましょう。正直なところ、僕は、いや、きっと村じゅうの人間が、あの姉妹に振り回されるのはもううんざりだと感じているんですから。