ストック切れのため6月はおやすみします

文章のストックが切れてしまったので、少し書き溜める時間をとろうと思います

吸血鬼

相変わらず汚いところだ、と雄太は思った。この部屋では太陽の光さえ黄色く埃っぽくなる。あらゆるところに積まれた紙束が、雄太が動くたび埃を舞いあげていた。 「蓮」 できるだけ空気を口から吸い込まないように気をつけながら雄太は呼んだ…「蓮!」 ばさ…

店内雑感

上着を持ってこなかったのは失敗だったと、思っているのだろう。彼女は二の腕を擦る妹を見て見ぬふりするつもりだった。出かける直前まで、上着を持ったのか何度も聞いたのに。「ねえ、ゆっちゃん…」ところが妹の方から話しかけてきたので、反応しないわけに…

最初の一杯

確かに社長の言ったことは本当だった。 僕は今、社長室にいた。もちろん前の会社の社長室ではなくて…いや、今も給料を貰っているから、前の会社というのはおかしい。今の会社…というのも変だ。僕は表向きクビになったのだから。 つまり、僕は前の会社をクビ…

魔王討伐隊

魔王は死にました。世界は平和になりました。それは、私たちにとって、最低の結末でした。「おはようございます!!」 今日も扉の向こうで、無理に明るさを振り絞った声が聞こえてきます…私はうんざりした気持ちと、そして何か、うまく表現できない複雑な気持…

記事の修正

「第二の人生」の誤字と 「バス停」のフォントがほかの記事と違っていたので修正しました。

第二の人生

人間は間違った選択をするものだ。僕は友人の孝介を尊敬している。孝介は模範的な児童であったし、生徒であったし、学生だったと思う。成績はぶっちぎりというわけではなかったが、まあ優秀なほうであったし、何より教師の覚えが良かった。地味ではあったが…

事件の報告

夕日が窓から差し込んでいた。こんなことしている暇なんかないのに。明らかに不服を顔に浮かべる部下を、警部は肘でつついた。「そう」警部を名指しで呼び出したくせに、この女の反応はなんだ。部下は不服顔を取り繕わなかった。半年前から連続して起きてい…

最後の一杯

クビになった。 いや、厳密にはクビにはなってない。 とはいえ、クビになったとしか表現しようがない。 僕は自分のデスクの前で立ち尽くしていた。もうどうしようもない。 どうしろっていうんだ。 ほんの一時間前、僕はいつもどおりに出社した。入社五年目。…

姉妹の帰郷

妹さんのほうは、それは美しい方でした。ご存知でしょう。女、という言葉を、あの方以上に意識させる方はこの村にはいませんよ。ご自分でもそれをよくわかっておられる方でした。誰もが一度はあの方に…正直なところ、僕だってそうです。でも、怖いところもあ…

バス停

田んぼの真中を突っ切るように引かれた道路に、黄色いベンチが置かれていた。正確には、黄色いベンチというには古びすぎているけれど、しかし黄色だったベンチと表現するほど面影を失いすぎてもいなかった。ベンチには老婆が腰掛けていた。老婆と表現するほ…

何でもない話

レストランの駐車場に一台の車が止まる。その中から一組のカップルが出てきた。「オススメの店なんです。」楽しそうに言う男。「昔、よく食べに来ていました。おいしいんですよ、安いし。」「ふつうのファミレスじゃない。チェーン店なんだから、どこも一緒…

庭の盥

太陽と草の匂いが、中庭じゅうに蔓延していた。使い込まれすぎて黄金に輝きはじめていたアルミのたらいは、あづさの足の動きに合わせて中の湯をちゃぷちゃぷ言わせた。午後に入ってすぐの空はどこまでも青く、重そうな雲は真っ白だった。「お湯加減はいかが…

旅人の靴

たったひとつこの世に魔法があるとしたら、彼の靴こそがそうだ。世界の果てと果てを何往復したって、ちっとも擦り減りはしないし、まして穴なんて絶対にできないだろう。 彼は、旅人なんだ。 砂漠の真ん中にぽつんとあるその建物に、彼は興味を惹かれて近づ…

エイトレス王妃

<1> 国王、エイトレスは三時間前には妻帯者となっているはずであった。既に広間には大勢の貴族達で溢れ、神父は祭壇の前で朝から聖書を五度も読みきっていた。三時間、この部屋で喋る者は誰もいなかった。 公爵、サラザウダは、自分の背骨が凍り付いてい…

梅雨の夜

私と現実との間には隙間がある。真空の隙間だ。現実に触れようとすれば、気圧差に耐えられずに皮膚が裂け肉が吹き飛ぶ。 この隙間に気づいたのは、ごく最近だ。 恐怖は朝と言わず昼と言わず腹の中心からにじみだす。脳は後頭部から細く伸び上顎に重心を残し…

楽園の羊

ただただ広い草原に、2匹の羊が寝転んでおりました。羊のだらけぷりと言ったらもう、脳が溶けているのかと思うほどでした。2匹とも毛皮さえ脱ぎ、片方は腹を、片方は背中を地面にどろつかせ、太陽や土を見るだけでぼおっとしておりました。脱ぎ散らかした毛…

このブログについて

はじめまして。id:hamapuです。 このブログでは、書き溜めた詩・短い小説などを公開していこうと思います。 感想などはコメント欄にどうぞ。