記事の修正

「帰省」の 一部(下記の下線部)を修正しました。

指定席でコンセントがあるのは窓側ですね…

特に、語り手は「窓際に座りたい」と言っているので、突然通路側になるのは変ですね

 

(修正前)

景色なんかはもうあんまり見ないですね。見ないなあ…だからもう…なにがあったかなんて覚えてないですねえ。運がよけりゃパンを食べきって寝れるんですがね、まあでもたいてい起きたばっかりで新幹線乗ってるからなあ。だからゲームなんかをして過ごしますね。通路側だと、電源もありますから、今時はね。

 

(修正後)

景色なんかはもうあんまり見ないですね。見ないなあ…だからもう…なにがあったかなんて覚えてないですねえ。運がよけりゃパンを食べきって寝れるんですがね、まあでもたいてい起きたばっかりで新幹線乗ってるからなあ。だからゲームなんかをして過ごしますね。窓側だと、電源もありますから、今時はね。

水泡

遠くに見える光が未練がましくて

自分の目尻から泡が吸い込まれていった

 

沈んでいくのはわかっていたけれど、苦しくはなくて

ゆらぎとおのく太陽をここちよく感じるほどだった

 

空気を取り上げてくれるなと願ったことはないはずで

重力を疎ましく感じていたはずで

どこまでも

 

底なしに

 

包まれていくことを、

願っていた

 

涙と

吐息だけ

太陽に預けて、あとは私のものだから

私の腕に抱えられるから

 

この喉が締め付けらられるような胸の熱は

この感情があったから私は息ができていて

呼吸さえ不要な世界では、息をする動機もいらないはずだけど

 

全身で支えていたつもりの

背中に背負っていたつもりのその荷物は

拳をそっとひろげた隙間に収まってしまって

これくらいのものならば、持っていってしまおうと

にぎりしめた

 

負と呼ぶ人もいるこの荷物を

誰にも私から奪えなくするように

私はまだきっと

いつか息を

したくなって

 

それを

諦めることが

 

できない

帰省

 意外かもしれませんが、たいてい切符は先に買っておくんですよ。もう絶対に座りたいですからね、指定席を。年末やゴールデンウィークじゃなくても、自分が思いがけない日に人でいっぱいだったりしますからね。

品川までいくのはね、まあ大丈夫です。通勤でも降りる駅ですから。たいてい出発は昼食時にします。でね、新幹線待ってる間にパンを買いますね、ふたつ買います。おかず系とおやつ系っていうんですか、しょっぱいやつと甘いやつですね。おかずにするのはね、たまごなんか挟んであるやつが好きですね。チーズ! チーズもいいですねえ、パンはね、固いのも柔らかいのも好きですけどね。柔らかいほうが好きかな。だから甘いのはクリームパンなんかを買いますね。あとは缶コーヒーがあるといいんですが、まあ最近はペットボトルのを買います。ええ、やっぱり味が違うと思うんですよ缶とペットボトルじゃ。まあでもペットボトルは便利ですからねえ

 新幹線に乗ったらもうすぐパンを食べます。しょっぱいやつをね、だからこのしょっぱいパンは食事ですね。新幹線が動いてないうちから食べますよ。だから僕は窓際に座りたいんです。食べてる間にどんどん人がきてね、通路側に座ってなんかしたら「すみませんちょっと私奥の席で…」なんてことになるでしょ。だからもう切符を買っちゃうんです。それでパンを食べますね。しょっぱいやつを食べて、あとに甘いのを食べて、だから甘いのはデザートですよ。

景色なんかはもうあんまり見ないですね。見ないなあ…だからもう…なにがあったかなんて覚えてないですねえ。運がよけりゃパンを食べきって寝れるんですがね、まあでもたいてい起きたばっかりで新幹線乗ってるからなあ。だからゲームなんかをして過ごしますね。窓側だと、電源もありますから、今時はね。

それでね、いつもヘッドホンか耳栓をします。人が話してるのがねえ、気になって。気に障るとかじゃなくてね、続きが気になって。でもたいてい人の話なんて最後まで聞いててもなんにもなりませんからね。最初から聞かないほうが良いってわけです。

 駅に着くとねえ、まあたいていの家がそうでしょう。親が健康なら…だから過保護ってわけじゃあないと思うんですよ、その…まあ駅に着くとね、うちの母親が来るまでもうね、迎えに来ていますから。クルマに乗るわけです。

車の中じゃあもう母親がずっと話していますよ。それを聞きながら景色を見るわけです、まあ見るものなんてありゃしませんけど。駅前しばらくはね、百貨店があったりスポーツジムなんかあったりして賑わっていてね、カフェができてたりなんかしてね。ああおふくろあんなにおしゃれなカフェができたんだねえこんな田舎にも。あれえそうかね、あそこには前なにがあったんだっけね。さあなんだっけ…。たいていこういうことは思い出せないんですね。

駅からすこし離れればもうすっかり賑わいもなくなってね、誰かの家と閉まってる店と信号と横断歩道がずうっと続くんですよ。たまにコンビニと携帯電話ショップがあって、ああいうところの看板は東京じゃあなんとも思いませんが、うちみたいな田舎にあるとずうっと目立っていますよ。遠くからもう、あああそこにコンビニがあるなあ。通り過ぎるまでずうっとコンビニがあるって情報しかないわけで、他の情報はなんにも入ってこないです。まあ、なんにもないからですね。

駅から家はねえ、結構ありますけど、母の話は尽きることがないです。父親がどうしたとか近所の誰がどうしたとかね、一度も同じ話を聞いたことが無いからすごいですよ。ねえおふくろその話もう聞いたよってことが無い。まあ僕も真剣に聞いちゃあいないですが。僕が口を開くのなんか、あれおふくろここらへんにレストランがなかった?ほら和食のさ。とか、ねえおふくろここの信号ついにLEDになったんだねえいつから? なんてことばかりですよ。母はそのたびに、もうあんたは私の話なんて聞いてないんだからって怒るわけですけど。

 僕の家はちょっと入り組んだところにあってですね、車庫入れなんかはいつもヒヤヒヤしますね。まあ親は慣れたものなんでしょうけど、免許をとってからは特にねえ、よくこんなところに車を入れるもんだと思いますね。

 まあとにかく、実家まではこんな感じですよ。家をでて品川で新幹線乗って…実家までは3時間半か4時間くらいかなあ。何故かねえ、母がケーキを買ってあるんで帰ったらまずそれを食べますねえ。

 ノスタルジーを感じるほどの田舎ってわけでもないんですよ、住宅街ですねえ。田んぼと山ばっかりなんてこともなくてね、観光地も近くにないし。つまらないところですよ。田舎ってのはきっとどこもそうでしょう。来ていただくってほどのこともないですが、来ていただけたらそりゃあ歓迎はしますけど、ねえ。うちの県ならもっと観光地のあるところにいらっしゃるが良いでしょう。

不定期になると思いますが、更新再開します

長期放置していましたが、更新を再開しようと思います。

現状文章のストックが無い状態なので、しばらくは不定期更新になると思います。

 

吸血鬼

 相変わらず汚いところだ、と雄太は思った。この部屋では太陽の光さえ黄色く埃っぽくなる。あらゆるところに積まれた紙束が、雄太が動くたび埃を舞いあげていた。
「蓮」
できるだけ空気を口から吸い込まないように気をつけながら雄太は呼んだ…「蓮!」
 ばさり、と部屋の奥で音がした。狭い部屋は、積まれた紙束のせいで迷路のようになっていた。扉を背中で支えながら立つ雄太から向かって正面と右側の壁には、埃と本でぎっちり詰まった本棚が壁を隠していた。蜘蛛の巣さえあった…いくつもの紙束が塔となり、部屋はその影で薄暗くなっていた。
「いないのか、蓮」
「いるさ、雄太…ええと…少し…待って」
紙束の塔の影に何かが動いているのが見えた。雄太がそちらに踏み出すと、背中に支えられていた扉が嫌な音を立てて閉まった。紙を踏みつけるのもかまわず、雄太はやや大股で3歩歩いた。
「今…うん、でも」
塔の向うにいた日に焼けた青年は、ほとんど裸と言ってよかった。雄太はそんなことよりも、また彼の髪が伸びていることにぎょっとして黙りこんだ。
「少し…今それらしい記事を…」
蓮はぶつぶつ呟きながら古い新聞を読んでいた。もっさりと覆い茂った髪の間から端正な顔立ちがのぞいた…雄太が望んでも手に入れられないものを、蓮はすべて持っていた。
「なあ、蓮ぼくは…」
「いるんだ、ねえ。やはりいるんだ」
雄太が口を開いたのと同時に、蓮がぱっと顔を上げてはっきりと言った。大きな声ではなかったが、凛と狭い部屋に響いた。
「で、おやじは何て?」
急に蓮が自分の心を読んだので、雄太は答えるのに一瞬かかった。
「榛名さまは、いいかげんそんな酔狂なことはやめろって…」
「酔狂なこと!」
蓮が手にしていた新聞を放り投げてゲラゲラと笑った。「確かに酔狂なことかもしれないさ、おやじにとっては」
ぱんぱんと剥き出しのふとももを叩くと、空気中に埃が舞い上がった。
「でもぼくにとってはそうじゃない」
「いい加減にしろよ、蓮」
雄太があぐらをかいた蓮をまたいで、捨てられた新聞を拾い上げた。目的の記事はすぐにわかった。
「本日未明、宗女川ニテ惨殺死体。血液全テ抜キトラレタリ…なあ蓮、本当にこれが妖怪の仕業だっていうのか? 妖怪なんてほんとにいると思ってるのか?」
「妖怪じゃない。吸血鬼さ」
新聞を投げつけても平然としている蓮に、雄太はしがみついた。
「なあ、蓮。ぼくの立場も考えてくれよ。ぼくだって君が好きなことをするのに反対なわけじゃないんだ。でもやりすぎだ。それに…ぼくが榛名さまには逆らえないのは君だってわかってるだろう」
「ああ、君には迷惑をかけているね、雄太」
それでもまだ平然としている蓮に、雄太は怒りで混乱さえしそうだった。
「ねえ雄太、ぼくはね、殺されたって何か分かるまでここにいるし、何か分かったらそこへ行くよ…」
「そこって?」
雄太の膝はもう埃だらけだった。頭の先からつま先まで流行ものを身につけた彼は、裸で垢と埃まみれの友人の美しさに昔から嫉妬していた。
「さあ、わからない」
蓮は友人の膝をじっと見つめながら言った。
「目途は立ってるんだけどね」
友人の膝に黒いすす汚れを見つけて、ニッと笑った。

 朝から榛名邸は大忙しだった。雄太も自分の仕事に手いっぱいで、自分の机に置かれた手紙に気づいたのは昼をすぎてからだった。
 ”来てくれ”
蓮の字だった。雄太はその字を見たとたん、忙しい自分にこんな呑気な手紙を寄こして来る友人に腹を立て、手の中のそれをくしゃくしゃと丸めるとそこらに投げ捨てた。しかし、ふと、ずっと部屋に引きこもっていた蓮がわざわざここへ来てこの手紙をここにおいたのだろうかと思い直し、自分が投げ捨てた手紙を拾い上げると広げ直した。
 やはり親友は自分を呼んでいた。
 雄太は机の上に広げていた帳簿に適当な紙をはさむと、急いで連の部屋に向かった。嫌な予感を振り払うように、部屋の扉をあけた。
「やあ」
そこにいたのは、地上で一番の美男子だった。昨日まであんなに伸びきっていた髭や髪は短く刈り込まれ、垢だらけだった体は太陽に輝いていた。蓮の装いは時代遅れだったが、その上等なシャツや、紐飾りのついたベストや、ゆるやかなズボンを足首で締め付けるブーツは彼によく似合っていた。
「やっと見つけたんだ。今から探して、会いに行く」
連はゆっくりと微笑むと、扉に向かって歩いてきた。
「な、なんだい」
雄太はまた背中で扉を支えながら親友を引きとめた。
「なんのことだい、この忙しいのに」
「忙しいのは田辺の息子が死んだからだろう」
蓮はカフスをとめながら言った。
「田辺はお得意だったものな」
雄太は自分が鉛筆を握ったままでいることにようやく気づいて、その手をポケットに突っ込んだ。
「知っているなら手伝ってくれよ、蓮。なにしろ…」
「田辺の息子はどうやって死んだか、知ってるかい」
雄太の嘆こうとするのを遮って、蓮はブーツの紐を結び始めた。
「血を抜かれて死んだのさ!」
ゲラゲラと笑う友人を、雄太は心底恐ろしく感じた。
「蓮、それ…」
「雄太、僕は榛名の息子だよ。田辺の様子を知るのなんて簡単なことさ」
雄太は連の言葉に納得したが、彼の笑顔にまだぞっとしていた。
「それでね雄太、僕は死体を見たんだ…奴は今夜また食事をとるだろう」
ふっと、蓮の顔から笑みが消えた。
「どうしてそんなことがわかるんだい」
「ぼくはずっとここで奴のことを調べていたもの」
言いながら、蓮は雄太の背中から扉を奪い取り、そのまま外へと出てしまった。
「ぼ、ぼくも行く」
雄太はポケットから手を出し鉛筆を投げ捨てると、あわてて友人の後を追った。

 蓮のいう”めじるし”を見つけた時には、もう深夜と言っていい時間になっていた。雄太と蓮は、誰かの屋敷の中庭がよく見える道端に座り込んでいた。蓮曰く、この”めじるし”のあるところに吸血鬼はやってくるのだそうだ。雄太は後悔を超え眠気に苛まれていた。
 音もない、夜だった。
 どんよりとした雲の間から、時折月が覗いていた。
 時間は、流れるのを忘れ暗闇の中で迷子になっていた。
 沈黙と眠気が、ゆっくりとあたりに充満していた。
蓮がぴくりと動いたので、雄太は中庭を見やった。質素な中庭だった。この屋敷が誰のものだったか思い出すのも面倒だった…屋敷から、少女が出てきた。あれが生き血をすする鬼なのだろうか? 雄太は帰りたいとはっきり思った。
 ふと、中庭に立つ女に気づいた。大女だった。なぜ今まであんな大きなものに気づかなかったのかと雄太は不思議に思った。
「いけない、逃げられてしまう」
言葉よりも早く、蓮が動いた。植えこみを乗り越え中庭に侵入した。びっくりしたが、雄太も慌てて後に続いた。
 少女が音に気づいてこちらを向いた。通夜のある黒髪が、月の光に輝いていた。
 中庭には、少女ひとりきりだった。  蓮は何かを言いかけた。けれど、唇は空を切るだけだった。  薄紫色の空が、輝き始めていた。膝を抱え一言もしゃべろうとしない友人の隣に、雄太はただ座っていた。  朝陽が、足元の草に影をつくり始めた。弱い風が頬を流れていた。 「まだ仕事が終わってないんだった」 雄太は蓮の肩に肩をぶつけ、立ち上がりながら言った。 「ぼく、帰るよ」 ああ、と蓮が答えたのが聞こえた気がした。見下ろした先の友人は、小さかった。 「ねえ蓮、おぼえてるかい。僕たちが子どもだったとき、一緒に家出をしたね」 ふと口をついてきた言葉は、きっとちぎれ雲のせいだった。 「あのときどこまで行ったか覚えてるかい…丸1日歩いたっけね」 蓮がゆっくりと顔をあげ、真っ赤になった目で雄太をじっと見つめた。 「あれ、大石神社だったんだよ。気づいていたかい。僕は使いでよくあの前を通るからね」 雄太はポケットの中に手を突っ込み、鉛筆が無いことにふと気づいた。 「あのときは、世界の果てにきたような気がしてた」  ポケットから手を出すと、鉛筆の削りカスだけが指の間からこぼれ出た。雄 太はくるりときびすを返すと、帰路をゆきはじめた。  1日が、始まろうとしていた。

店内雑感

 上着を持ってこなかったのは失敗だったと、思っているのだろう。
彼女は二の腕を擦る妹を見て見ぬふりするつもりだった。出かける直前まで、上着を持ったのか何度も聞いたのに。
「ねえ、ゆっちゃん…」
ところが妹の方から話しかけてきたので、反応しないわけにはいかなくなった。いや、聞こえていないふりをするという選択肢もあるのだが…いや、妹のことだ。反応するまで声をかけ続けるだろう。
「なんかここ、寒いね」
上着を持ってこいって、あれだけ言ったじゃない。
そんな言葉は無駄どころか、新たな問題を引き起こす可能性すらある。きっと彼女は、今自分がどこに座っているのかも忘れて立ち上がり…いや、立ち上がりはしないかもしれないが…ともかく、叫ぶか、ほとんど叫んでいるに近い大声でこういうだろう―
「そんなこと言ってなかった!」
あるいは
「こんなに寒いと思わなかった」とか「我慢できると思ったの!」
いや、会話だって成り立たないかもしれない。過去にはこんな例だってあった。
「なあに、私が悪いって言うの!?」
とにかく碌なことにはならない。妹の金切り声を現実にしてはならない。
 彼女は自分の上着を脱いで妹に差し出した。妹は顔中に不快感を浮かべる。
 なに、そんなの着ろっていうの?
「ああ…ありがと、でも悪いからいいよ」
抑揚のない声でつぶやくと
「さむうーい」
わざとらしく肩をすくめた。
 彼女も寒かったが、再び上着を着るわけにはいかなかった。ゆっちゃんだけ暖かくて良いよねー…妹の視線のほうが冷たい。
鞄の中に上着を押し込みながら、妹には聞こえないよう小さくため息をついた。
 いつもこうだ。
 
 いつもこうだ。
 あの姉妹はこの店の常連だが、姉が妹にこそこそと気を使うたびに溜息が出る。
たしかに、あの姉妹の妹のほうは---何度かこの店でも大暴れしたことがあるが---機嫌を損ねると大変だというのは事実だ。しかし、それにしてもあれでは言いなりではないか。あの姉妹を見るたびにやりきれなくなるというだけで、彼は一時期店を辞めることすら考えたことがあった。
 できるだけ小さく丸めた溜息を鼻から吐き出すと、彼はトーストされたばかりの食パンを切った。
「テリー」
カウンターの向こう側から声をかけられドキリとする。サンドイッチもうできます、と言いかけた彼を、ウェイトレスは身振りで制した。
そしてカウンターに身を乗り出し、ささやく容に
「2番テーブルさあ」
と切り出した。
2番テーブル。確認するまでもない、あの姉妹の席だ。
「聞いてたでしょ、おっきい声で寒い寒い言ってたの」
「聞こえてました」
さりげなく訂正するが、ウェイトレスの目は「わかってるんだから」と笑う。
「今さ、注文入ったんだけど、あの妹。なに頼んだと思う」
首を傾げる彼を楽しんだあと、ウェイトレスは注文票を彼に差し出した。
「ええっ…コーラフロートって…」
本当に驚いたのだが、しかしウェイトレスのために少し大げさにリアクションをとった。
「ほんと」
ウェイトレスも、大げさに溜息をついてみせる。
「あのお姉さんもさ、なんで付き合ってんだか」
ウェイトレスは2番テーブルを一瞥した。妹がなにやらわめき、姉が慌てて鞄から何かを取り出していた…
「いっつもあんな感じなんだから」

 いつもこの店はこんな感じなんだから…
飲み物は比較的すぐに出て来るが、食べ物はなかなか出てこない。カウンターの向こう側の男店員は、ウェイトレス姿の女店員となにやら談笑している。彼女は肩をすくめて冷めきった珈琲を飲んだ。
きっとハムサンドは、この珈琲を飲みきってしまった後に出てくるのだろう。
 いつもこうだ。
でも、この窓際の席は格別だ。窓の外に見える大通りをじっくりと眺められる。人が歩いているのを見るのが好きだ。いろんな人、いろんな格好、いろんな仕事、いろんな関係。
部屋に閉じこもっているばかりじゃ見れないものだ。休日にこの席に陣取るのは、彼女の数少ない趣味のひとつだった。
 今日は少し雨が降っている。そのせいで少し肌寒いが、おかげで大通りにはドラマがあふれている。傘という小道具が想像を掻き立てる。
 彼女はゆっくりと足を組むと、もう一口、珈琲を飲んだ。おかわりを頼もうか。少し晴れてきたし、もう少し鑑賞を楽しめそうだから。