メモがいっぱい溜まってきた話

 一般的に詩や小説をどう書くのかわからないが、私は未だにこう書くというのが定まっていない。何も決めずに書き出して最後まで書けるときもあれば、予め大まかな流れを決めておいてから書き始める場合もある。オチだけ決めて書くときもあるし、書き出しだけ決めてどう締めるか決めずに書き始めて四苦八苦する場合もある。

 ある程度長い話を書く場合には、お話の流れや登場人物の特徴をまとめた資料を用意しておかないと、書いているうちに綻びが出てくるが、私が書くような量の話はそこまでの準備をする必要はない。こみいった話になっても、推敲を繰り返せば修正できる量だ。時系列が入り組んだ話をつくるなら、予め話を時系列順に並べたものは必要かもしれないが...

 「魔王討伐隊」なんかは、書き出しだけ決めて走り始めた良い例だ。これは最後まで書くのに結構苦労して、途中まで書いて数日寝かせた覚えがある。

 一方、「旅人の靴」は"蜘蛛のような機械が軽犯罪者を殺す" というオチだけ決めて書き始めた。実際にはそれをオチにはしなかったわけだが、まあそんなこともある。

 書き出しもオチも何も決まっていないが、作中の雰囲気というか、テーマを決めて書き始める、という方法で書いたものが一番多いかもしれない。「第二の人生」は、情景の描写で登場人物の心理状態を表現したかった。今読むと少しくどい。

 作中のセリフやワンシーンだけ思いついて、そこから話を膨らませていくという方法もよくやる。「事件の報告」は "眼孔への性行為" というシーンを思いついて書いた。性行為を直接描写する、というのはいずれやってみたい。

 

 テーマを決めて書いたり、作中のセリフやワンシーンから膨らませていくには、種となるものが必要だ。普段思いついたら、それを忘れないようにしないといけない。私はすぐにはメモはしないで、ある程度書き出せるボリュームになるまでそれについて考え続けるようにしている。メモしておいても、一度忘れるともう思い出せないからだ。とはいえいつまでも形にならなかったときは、メモや「書きかけ」の状態にする。アウトプットしておくことで、次のアイデアが出せるように一度頭から追い出すようなイメージだ。

 で、掲題の話だが、そのメモが溜まってきた。どうも最後まで肉付けしきることができなくなっているような、もどかしさを感じている。あまり好きな言葉ではないが「諦めグセ」のようなものがついたような気がしてならない。年を越してしまったので、思い切って公開する。

 

① 軍人の妻が、夫は人を殺したから地獄に行くが、自分には罪が無いので死後一緒になれないと嘆く

 

② 主婦が台所収納で少年を飼っている

 

③ 「あいつに殺されるぞ」と脅すと、怯えて必ず先手を打つのでそれを利用されて仕事をさせられている殺し屋

 

④ バスタブで死んだ犬と寝ながら胃液を吐く少年

 

これらが形になった小説を見た際にはぜひ一緒に喜んでほしい。

異国情緒

異国にいる。

 

地球を半周もしたところにいる。温度も湿度もまるで違う。駅名も通りの名前も読めず、自分が今どこにいるのかわからない。昼と夜とで街の顔が違って、ホテルに帰れない。買い物をしても適正な価格がわからない。石のように見えるお菓子が歯が溶けるほど甘い。壁が薄い。窓が大きい。全部紙幣だ、硬貨が無い。

 

道路の端で足を洗っている人がいる。月がやけに大きい気がする。小学生くらいの背丈の木がずっと並んでいる。何かが焦げたような臭いが街中に漂っている。図書館が宮殿のようで、遺跡はこじんまりしている。そしてその遺跡を訪ねたかどうか、どこにいっても聞かれる。人々の額が広い。

 

自分が記憶喪失なのだ、と考えてみる。家族も恋人もこの街にいるのに、自分だけが忘れているのだ…ちょっと、無理があるかな。けれど、身の回りのことを知らないという点では記憶喪失と似たようなものだ。事実私は買い物さえ満足にできない。今も片手に、露天で買ったサンドイッチのようなハンバーガーのようなタコスのような、なんだか得体の知れないものを握ってはいるが…これは私の買いたかったものではないのだ。

 

文明から切り離されたようだ。この街に文明が無いわけではなくて、私だけが切り離されている。今の私は文字さえ持たない。言葉も持たない。身振りさえ、どうも私の知っている意味とは違うようだ。すべての情報を受け取ることができない。誰もが私を赤ん坊のように扱った。ゆっくり丁寧に話しかけてきて、擬音を多様する。大げさに笑ってみせて、微笑み返すとお菓子をくれた。

 

 太陽が沈んだのだろう、橙色の空が少しずつ紫に染まってきていた。

光の強い星は、もう輝き始めていた。真っ白だった雲は青灰色になり、空と溶け込もうとしていた。

 星の並びは、私がいつも見ていた空とやはり違うのだろうか?

 星の並びなんか覚えていないので、わからなかった。

最期のカレー

 終末が予告されたのは、確か5年くらい前だっただろうか。

 地球よりも大きな隕石が…いや、それはもはや隕石では無い気がするが詳しいことはよくわからない…落ちてくる というよりぶつかるといったほうが正しいと思うが、とにかくそれが避けられないことがわかったのが、それくらい前だった。

 多くの人は半信半疑で、さらに多くの人は全く信じなかった。国際会議が何度も開かれるうちに、半信半疑の人が増えていった。ついに空に隕石が見えた日も、やはり多くの人が半信半疑だった。最近では月の双子といった大きさで観測できるが、しかしあれが落ちてきて死ぬのだという実感はあまりなかった。

 陳腐なSFにあるように、変な宗教が勢力を伸ばしたり、暴動が起きたり、宇宙船が建設されるなんてことはなかった。おそらく地球上の殆どの人は、隕石が出現する前と同じ生活を送った。いや、俺の知らないところで、誰かが隕石と戦ったり宇宙船を建設したりしているのかもしれないけれど、とにかく今日も昨日と同じ生活をするんだという社会的な圧力が感じられた。そうすることで明日がくるんだというような。

 俺も朝起きて会社に行き、終電で帰宅してコンビニ飯を食って寝て、休日は近所のサウナに行くという生活をあいも変わらず続けていた。ただなんとなく、都合が合えば昔の友人に会うことにしていた。昔の友人と、思い出話をし尽くせば、後悔なく滅べるような気がしていた。…万が一滅ばなかったとしても、思い出話をしたことが無駄になるなんてことはないだろう。

 

 用田と会える約束ができたのは意外だった。昔の友人と飲むようなタイプではなかった。同窓会の誘いもすべて無視しているようだし、同級生に聞いても用田が今何をしているのか正確に把握できている奴はいなかった。SNSもやっていないようだったが、中学のころのメールアドレスにメールしたら、なんと返信があった。

 用田は小中の同級生だ。当時から変わった奴だった。頭も顔も運動神経も良かったが、とにかくなにかに執着すると終わりのないやつだった。小学校入ったばかりのときにどんぐりを集めるのがすこし流行ったが、あいつは中学の卒業式でもどんぐりを探していた。

 約束の時間を30分は過ぎていた。自分が約束の時間を間違えたんじゃないかと不安になり、メールを見返した。何度見返しても、約束は今日の18時で合っている。

「よしかわー!」

急に名前を呼ばれて、顔を上げた。

「よしかわー!よしかわー!」

知らない男が、俺の名前を叫んでウロウロしていた。ぎょっとしたが、あんなことをしそうな男を知っている。

「用田!」

あまり大きな声を出せなかったが、用田はこちらに気づいて近づいてきた。

「叫ぶなよ恥ずかしい」

「ああ…でももう20年以上会ってないから、顔みてもわからないと思って」

名前なら変わってないと思ったから、呼んだんだ。用田は相変わらずだった。

「とにかく…久しぶりだな」

用田は毛玉だらけの黒いスウェットに、濃茶のチノパン、信じられないほどボロボロの白と蛍光グリーンのスニーカー。すごい格好だな、というのをぐっと堪えた。

「お前、酒飲めるのか」

そもそも飲みにいく約束をした30代の男二人だ、そんな確認は普通しない。だが、用田の顔を見た瞬間、とっさに俺の口からはそんな言葉が出た。用田の顔は記憶の中の、中学のころと全く変わらないように見えた。

「ううん、まあ旨い酒なら飲める」

飲めるようだった。

 

「急になにか用なの」

駅前の安い居酒屋にでも入るつもりだったが、用田は自分の馴染みの店があるからと譲らなかった。オフィス街をずんずん進んで、鏡でできてるんじゃないかってくらいピカピカのビルのエレベータに乗り込み、最上階で降りると、自宅に帰るくらいの自然さで、ジャンルはよくわからないがとにかく高級そうな料亭に入ったのだった。

「よしかわだからさ、宗教とかマルチとかでは無いと思ってきたけど…」

個室の座敷に通されるなり、何も食べていないのに用田は爪楊枝で口の中を弄り始めた。

「いや、今こんなんだからさ、昔の友人に会って回ってるんだ」

宗教やマルチを疑われたのは初めてではなかった。急に昔の友人が理由もなく連絡してきたら、まずはそれを疑うのは至極真っ当だ。

用田は俺の言ったことを理解できないといったふうに少し首を傾げたが、それ以上追求する気もないようだった。

「用田と連絡つくなんて思ってもみなかったよ」

少し足を崩した。

「ちょっと家に籠もってた。研究してることがあって…」

「研究?」

「ちょっと前からさ、旨いカレーをつくりたくて、色々試してた」

…カレー?

「それでずっと家にいて、誰とも連絡とってなかった」

色々と理解が追いつかなかったが、とにかく俺の口から出た言葉は

「え、今日は…今日はカレーつくらなくて大丈夫なのか?」

用田はにっこり笑った。

「究極ってわけじゃないけど、まあまあ納得できるのが先週できてさ」

だから俺からのメールに返信したのか。

「そうか」

俺は漬物に少し手をつけた。旨かった。

「食べる?」

「えっ?」

用田が俺の顔を覗き込んでいる。

「てか、食べてほしいんだ。客観的な意見が欲しくて、それで今日来た」

どこからかラップで包んだカレーを取り出し机の上に載せた。…容器にすら入れていない。

「え、これお前作ったカレー?」

「そう」

「俺あんまスパイスとかわかんないんだよね、パクチーも駄目なタイプだし」

我ながらよくわからない言い訳だが、とにかくラップに包まれたカレーが小汚く見え、あまり口に入れたくなかった。

「俺もスパイスとかわかんないから大丈夫」

スプーンが要るな、と用田は店員を呼んだ。店員というのが正しいかはわからないが、用を聞いた着物の女性は数秒後には小さなスプーンをひとつ持ってきた。

「世界が終わろうってのにカレー作ってたのか」

「んっ?」

スプーンにカレーをすくい、差し出しながら用田は首を傾げた。

「なに、世界終わるの。お前意外とSFみたいなこと言うんだね」

もはや食べるしかない。

「…じゃあ、いただきます」

舌先でスプーンを舐めた。

 

 旨い。

 

なんだこれ、旨い。なにがどうとは言えないが、懐かしいような、食べたことが無いような、もっと食べたいような満腹になったような、とにかく旨い。カレーはすっかり冷めていたし、具なんてものは無かったが、とにかく旨い。

「旨いよ」

「だろ!?」

用田が座ったまま飛び上がる。

「なんだろう、とにかくカレーの味だ。それしかわからない。旨い」

旧友のために具体的な感想を言いたいが、舌も脳も味を理解していない。

「そりゃカレーだから」

用田はゲラゲラと笑った。

「でも、よかったよ。この方向で行く」

「まだやるのか。十分旨いよ」

スプーンを舐りながら俺はもう褒めることしかできなかった。

「俺はもうこれが最期のカレーでも良いと思ったよ」

「よしかわ、なんか変な宗教にでも入ったのか?世界が終わるって本当に思ってるみたいだ」

用田は笑ったままだった。俺はもしやと思ってスプーンを咥えたまま聞いた。

「用田、このカレーを作り始めて何年目だ。つまり、お前が家に籠もるようになってから」

「大学出てからすぐかな」

用田は笑ったまま、大学のそばにあった美味いカレー屋が潰れたのがきっかけだと話した。

「そうか、最近だと思ってたけど、10年近く前か」

 

ビルから出るなり、用田は空を見上げた。

「ああ、あれか。月じゃなかったんだ」

俺は隕石を見上げる用田の横顔をぼんやり見ていた。

「じゃあ、帰る。カレーもっと良くなったら、また食べて」

あっけなく踵を返すと、立ち尽くす俺を放って用田は駅へと歩き始めた。

「用田!」

旧友の背中に俺は声をかけた。

「お前、今もどんぐり集めてるのか?」

振り返った用田は困ったように微笑んでいた。

「今は量より質かなって考えててさ」

そうしてポケットから何かを取り出し、俺に投げた。

「それやるよ。とっておき」

瑠璃色に光る、宝石みたいなどんぐりだった。

宝箱

確かに、ミステリ好きな父だった。

 

とはいっても、専らテレビ派だった。特に老眼が始まってからは、飲食店のメニューさえ読むのが億劫そうだった。

 いや、違う。今は父との在りし日を思い返している場合ではないのだ。日本広しと言えど、故人が残した暗号に悩まねばならない息子はどれだけいるのだろう。

…意外と多いのかもしれない。

 

  ことの始まりは小学生の息子だった。おじいちゃんと最期に話した際、秘密の箱について教えてもらったらしい。自分が死んだら、中に入っているものをあげると…もう親に秘密を持つことくらいはできる年齢だったが、祖父の残した謎は解けなかったらしくついに諦めて私にその箱の存在を打ち明けた。そろそろ一周忌を迎えようかという夏の日だった。

 問題の箱はダイヤル式の小さな金庫だった。手提げ金庫というべきだろうか、持ち運べるように取手がついている。全面のダイヤルで3桁の数字を合わせれば開くもので、秘密の箱と表現されるにはポップすぎるくらいに青色だった。

「あのね、」

息子はおずおずとダイヤル部分のすこし下を指差した。これね…と口籠ったが、続きを聞く必要はなかった。もっというと、指し示してもらう必要さえなかった。そこにはとんでもなく大きな字で「タらた」と書いてあったからで、誰もがその3文字が解錠のために必要な3桁の数字となんらかの関係があると推察できるものだった。

「おじいちゃん他に何か言ってたか」

まずは情報を整理する必要があった。

「なにも…」

息子がそれきり黙ってしまったので、私もそれきり黙って金庫を見つめる以外に無かった。そもそも、何が入っているんだ? 万一腐るような性質なものだったら…

 

 もう夕方だというのに、まだ蝉の声がしていた。俺を責めているようにさえ感じた。

 おもむろに息子が立ち上がり、リビングから出ていった。

残された俺は、ようやくその秘密の箱に触れ持ち上げたが、ぎょっとするほど軽かった。この中になにか重要なものが本当に入っているのだろうか?

 リビングの外からバタバタと音がした。息子の足音だと気づきもしなかった。滑り込むように俺の前に正座した息子に、廊下を走るんじゃないと言うことすらできなかった。

息子はおずおずと青い小さなノートを差し出した。リング式のノートで、厚紙でできた表紙の端はめくれ上がってしまっていた。

理解が追いつかないまま、ノートを受け取り中を見た。000、001、002…3桁の数字の組み合わせの横に「×」がついていた。

「…試したのか」

ここには、すべての組み合わせが漏れなく書かれていた。

「うん、最初は"タらた"の意味を考えたけど、わからなくて、ぜんぶやってみようと思って…」

息子は恥ずかしそうだが、至極真っ当なアプローチだと思った。まだ9歳だということを考えれば上出来ではないのか?

「全部?」

すべての組み合わせが漏れなく書かれていた。

「もう全部試したのか?」

「うん、ぜんぶ…」

そしてすべての数字の横に「×」が書かれていた。しかも、×はひとつだけではなかった。ふたつついている数字も、ページいっぱいに×がつけられた数字もあった。

 全部試したのに開かないなら、開かないじゃないか。

 

 リビングが静寂に包まれた。蝉の声さえ聞こえなくなった。

 ようやく、息子の意図を理解した。金庫の塗装が、ところどころ剥げて銀色の地が見えてしまっていることにようやく気づいた。

 壊せと頼んでいるのだ。

 もう、謎解きでもなんでもなくなってしまった。

 

 夏の夜が街を包もうとしていた。もう太陽はすっかり姿を隠したのに、蝉の声がしていた。彼らの声がしなくなるのは何時頃だったろうか。彼らは眠らないのだろうか。

 息子の学習机の上には…おそらく数年後には引き出しの奥に移動になるが…祖父から受け継いだ青い宝箱が置かれている。その宝箱は、息子が大人になって、祖父からの謎を解くと開く魔法がかけられていて、そのときの息子にとって必要なものが入っている。謎を解かずに開こうとしたり、壊そうとしても決して開かないような、魔法がかけてあるのだ。

 

そういうことにした。

記事の修正

「帰省」の 一部(下記の下線部)を修正しました。

指定席でコンセントがあるのは窓側ですね…

特に、語り手は「窓際に座りたい」と言っているので、突然通路側になるのは変ですね

 

(修正前)

景色なんかはもうあんまり見ないですね。見ないなあ…だからもう…なにがあったかなんて覚えてないですねえ。運がよけりゃパンを食べきって寝れるんですがね、まあでもたいてい起きたばっかりで新幹線乗ってるからなあ。だからゲームなんかをして過ごしますね。通路側だと、電源もありますから、今時はね。

 

(修正後)

景色なんかはもうあんまり見ないですね。見ないなあ…だからもう…なにがあったかなんて覚えてないですねえ。運がよけりゃパンを食べきって寝れるんですがね、まあでもたいてい起きたばっかりで新幹線乗ってるからなあ。だからゲームなんかをして過ごしますね。窓側だと、電源もありますから、今時はね。

水泡

遠くに見える光が未練がましくて

自分の目尻から泡が吸い込まれていった

 

沈んでいくのはわかっていたけれど、苦しくはなくて

ゆらぎとおのく太陽をここちよく感じるほどだった

 

空気を取り上げてくれるなと願ったことはないはずで

重力を疎ましく感じていたはずで

どこまでも

 

底なしに

 

包まれていくことを、

願っていた

 

涙と

吐息だけ

太陽に預けて、あとは私のものだから

私の腕に抱えられるから

 

この喉が締め付けらられるような胸の熱は

この感情があったから私は息ができていて

呼吸さえ不要な世界では、息をする動機もいらないはずだけど

 

全身で支えていたつもりの

背中に背負っていたつもりのその荷物は

拳をそっとひろげた隙間に収まってしまって

これくらいのものならば、持っていってしまおうと

にぎりしめた

 

負と呼ぶ人もいるこの荷物を

誰にも私から奪えなくするように

私はまだきっと

いつか息を

したくなって

 

それを

諦めることが

 

できない

帰省

 意外かもしれませんが、たいてい切符は先に買っておくんですよ。もう絶対に座りたいですからね、指定席を。年末やゴールデンウィークじゃなくても、自分が思いがけない日に人でいっぱいだったりしますからね。

品川までいくのはね、まあ大丈夫です。通勤でも降りる駅ですから。たいてい出発は昼食時にします。でね、新幹線待ってる間にパンを買いますね、ふたつ買います。おかず系とおやつ系っていうんですか、しょっぱいやつと甘いやつですね。おかずにするのはね、たまごなんか挟んであるやつが好きですね。チーズ! チーズもいいですねえ、パンはね、固いのも柔らかいのも好きですけどね。柔らかいほうが好きかな。だから甘いのはクリームパンなんかを買いますね。あとは缶コーヒーがあるといいんですが、まあ最近はペットボトルのを買います。ええ、やっぱり味が違うと思うんですよ缶とペットボトルじゃ。まあでもペットボトルは便利ですからねえ

 新幹線に乗ったらもうすぐパンを食べます。しょっぱいやつをね、だからこのしょっぱいパンは食事ですね。新幹線が動いてないうちから食べますよ。だから僕は窓際に座りたいんです。食べてる間にどんどん人がきてね、通路側に座ってなんかしたら「すみませんちょっと私奥の席で…」なんてことになるでしょ。だからもう切符を買っちゃうんです。それでパンを食べますね。しょっぱいやつを食べて、あとに甘いのを食べて、だから甘いのはデザートですよ。

景色なんかはもうあんまり見ないですね。見ないなあ…だからもう…なにがあったかなんて覚えてないですねえ。運がよけりゃパンを食べきって寝れるんですがね、まあでもたいてい起きたばっかりで新幹線乗ってるからなあ。だからゲームなんかをして過ごしますね。窓側だと、電源もありますから、今時はね。

それでね、いつもヘッドホンか耳栓をします。人が話してるのがねえ、気になって。気に障るとかじゃなくてね、続きが気になって。でもたいてい人の話なんて最後まで聞いててもなんにもなりませんからね。最初から聞かないほうが良いってわけです。

 駅に着くとねえ、まあたいていの家がそうでしょう。親が健康なら…だから過保護ってわけじゃあないと思うんですよ、その…まあ駅に着くとね、うちの母親が来るまでもうね、迎えに来ていますから。クルマに乗るわけです。

車の中じゃあもう母親がずっと話していますよ。それを聞きながら景色を見るわけです、まあ見るものなんてありゃしませんけど。駅前しばらくはね、百貨店があったりスポーツジムなんかあったりして賑わっていてね、カフェができてたりなんかしてね。ああおふくろあんなにおしゃれなカフェができたんだねえこんな田舎にも。あれえそうかね、あそこには前なにがあったんだっけね。さあなんだっけ…。たいていこういうことは思い出せないんですね。

駅からすこし離れればもうすっかり賑わいもなくなってね、誰かの家と閉まってる店と信号と横断歩道がずうっと続くんですよ。たまにコンビニと携帯電話ショップがあって、ああいうところの看板は東京じゃあなんとも思いませんが、うちみたいな田舎にあるとずうっと目立っていますよ。遠くからもう、あああそこにコンビニがあるなあ。通り過ぎるまでずうっとコンビニがあるって情報しかないわけで、他の情報はなんにも入ってこないです。まあ、なんにもないからですね。

駅から家はねえ、結構ありますけど、母の話は尽きることがないです。父親がどうしたとか近所の誰がどうしたとかね、一度も同じ話を聞いたことが無いからすごいですよ。ねえおふくろその話もう聞いたよってことが無い。まあ僕も真剣に聞いちゃあいないですが。僕が口を開くのなんか、あれおふくろここらへんにレストランがなかった?ほら和食のさ。とか、ねえおふくろここの信号ついにLEDになったんだねえいつから? なんてことばかりですよ。母はそのたびに、もうあんたは私の話なんて聞いてないんだからって怒るわけですけど。

 僕の家はちょっと入り組んだところにあってですね、車庫入れなんかはいつもヒヤヒヤしますね。まあ親は慣れたものなんでしょうけど、免許をとってからは特にねえ、よくこんなところに車を入れるもんだと思いますね。

 まあとにかく、実家まではこんな感じですよ。家をでて品川で新幹線乗って…実家までは3時間半か4時間くらいかなあ。何故かねえ、母がケーキを買ってあるんで帰ったらまずそれを食べますねえ。

 ノスタルジーを感じるほどの田舎ってわけでもないんですよ、住宅街ですねえ。田んぼと山ばっかりなんてこともなくてね、観光地も近くにないし。つまらないところですよ。田舎ってのはきっとどこもそうでしょう。来ていただくってほどのこともないですが、来ていただけたらそりゃあ歓迎はしますけど、ねえ。うちの県ならもっと観光地のあるところにいらっしゃるが良いでしょう。